マスタリング用のプラグインには、iZotope Ozoneのように曲を解析して設定を自動で作るAI主導型があります。Shadow Hills Mastering Compressor Class Aはそれとは逆の方向性で、実在した1台のハードウェアの回路そのものを精密に再現することに専念したコンプレッサーです。
Class Aを選ぶ理由は3つです。
1. 世界50台しか存在しないハードウェアのモデリング。 2012年にVintage Kingが限定製造した「レッド」個体のClass Aバージョンを、Brainworxの特許技術TMT(Tolerance Modeling Technology)でモデリングしています。量産されなかった個体差込みの音を、ソフトウェアとして手元で使える形にしたプラグインです。
2. オリジナル(グリーン)版よりパンチのある特性。 光学式(オプティカル)と離散回路(ディスクリート)を組み合わせた2段構成のコンプレッションで、ゲインを同じ値に揃えて比較した場合、Class A版はグリーン版より1〜3dBほど出力が高く、より速くパンチのあるVCA特性と滑らかな圧縮音を持つとされています。
3. 出力トランスを3種から選べる。 ニッケル・アイアン・スチールの3種類の出力トランスを切り替えられ、同じ回路でも音の性格を作り分けられます。ステレオ・デュアルモノ・M/S処理にも対応し、マスタリングの最終段で音の輪郭と奥行きを調整する自由度があります。
一方で、無印版よりも価格は上がります。GUIは光学・離散の2系統のスレッショルドやゲイン、M/S処理、パラレルミックスなど多数のパラメーターが並ぶ構成で、直感的に触って完成させられるタイプの処理ではありません。
比較の軸は3つです。
限定ハードウェアの再現度そのものに価値を感じ、パラメーターの多さを厭わない人が、Class A版の対象になります。
公式ページの説明に基づいて、専門用語をひとつずつ日本語に訳します。
TMT(Tolerance Modeling Technology) — Brainworxが特許を持つモデリング技術です。回路図どおりの理想値ではなく、ハードウェアの部品ひとつひとつが持つ製造誤差(トレランス)まで含めて再現する手法で、この製品では2012年製の個体固有の質感を再現するために使われています。
光学式(オプティカル)+離散回路(ディスクリート)の2段構成 — 光を使って圧縮量を制御する光学式段と、個別部品で組んだ離散回路のVCA段を直列に通す構成です。片方だけの回路より複雑な圧縮の掛かり方になり、これが「ビンテージらしい質感」と評される所以です。圧縮の解放(リリース)は最初の80%が素早く戻り、残り20%は1秒以上かけてゆっくり戻る、2段階の特性を持ちます。
出力トランス(ニッケル/アイアン/スチール) — 信号が最後に通過するトランスフォーマーの素材を切り替える機能です。素材によって倍音の乗り方や質感が変わり、同じ圧縮量でも仕上がりの印象を調整できます。
Class A版とグリーン版の違い — Class A版はグリーン版よりゲインを揃えた状態で1〜3dB出力が高く、より速くパンチのあるVCA特性、滑らかな圧縮音、より大きなサイズ感と奥行きを持つとされています。ランプの色も、グリーン版が緑、Class A版が赤と異なります。
M/S処理・ステレオ幅調整。 ミッド(中央)とサイド(左右)を個別に圧縮できるM/S処理と、ステレオの広がりを調整する機能を備えています。マスタリングの最終段で、曲の中心と広がりのバランスを別々に整えられます。
パラレルミックス。 圧縮前の信号と圧縮後の信号を混ぜ合わせる処理です。強くかけた圧縮の質感を残しながら、原音のダイナミクスも同時に保てます。
サイドチェーンフィルター。 圧縮のトリガーとなる周波数帯域を絞り込む機能です。低域の変化に反応しすぎて全体が不自然にうねる、といった事態を避けながら圧縮をかけられます。
モノメーカー。 ステレオ信号の低域だけをモノラルに集約する機能です。マスタリングの仕上げでよく使われる処理で、低域の位相の乱れによる再生環境ごとの聞こえ方の差を抑えます。
| ストア | 税込 | 状況 | 購入 |
|---|---|---|---|
| 楽天市場 | ¥29,599 | 2026.09.28 取得時点の実売価格(ミュージックランドKEY WEST。ダウンロード版/メール納品) | 楽天市場で見る |
| Amazon | リンク先で確認 | JAN 4533940158129 での検索結果を開きます | Amazonで見る |
| サウンドハウス | リンク先で確認 | 「Plugin Alliance Shadow Hills Mastering Compressor Class A」での検索結果を開きます | サウンドハウスで見る |
ダウンロード納品のソフトのため、価格が販売店ごとに大きく異なります。購入前に、表のボタンから最新の価格をご確認ください。
Class A版が唯一の正解ではありません。求める質感や予算によって答えが変わります。
| 選択肢 | 税込 | 向いている人 |
|---|---|---|
| Shadow Hills Mastering Compressor(無印/グリーン版) | ¥27,000最安 | Class A版のパンチより、オリジナルの素直な質感を求める人 |
| iZotope Ozone 12 Advanced | ¥44,400(記事掲載時点) | 回路の質感よりAIによる自動処理と、EQ・リミッターまで1本で完結させたい人。詳しくはOzone 12 Advancedの記事で解説しています |
| DAW付属のマスタリング用エフェクト | 追加費用なし | まずは手持ちのDAWの機能だけで仕上げを試したい人 |
(無印版の価格は2026.09.28時点の楽天市場での実売価格)
分かれ目は単純です。オリジナルの素直な質感を求めるなら無印版、AIによる自動処理と多機能な統合ソフトを求めるならOzone、まずは追加費用なしで試したいならDAW付属のエフェクト、そして限定ハードウェアのパンチと質感を追い込みたいならClass A版という並びになります。
Class A版の発売を伝えたrekkerd.orgは、2012年当時50台限定でしか流通しなかった「レッド」版を精密に再現したモデリングだと紹介し、グリーン版よりパンチが速く汎用性が高いと位置づけています。Gearspaceの製品スレッドでも好意的な投稿が複数見られ、価格に見合う価値がある、音がクリアで扱いやすい、複数の使い分けができて柔軟だ、といった評価が挙がっています。一方で同じスレッドには、同価格帯のElysia Alphaのような他の選択肢を薦める投稿もあり、評価が一色に染まっているわけではありません。
不満点として繰り返し指摘されるのはGUIの複雑さです。KVR AudioのClass A専用スレッドでは、光学・離散の2系統分のコントロールが並ぶ画面について、見た目は良いがソフトウェアとしての操作性に落とし込めていない、似た形のノブが並んで見分けにくい、という指摘がある一方、オプト段とディスクリート段をステレオで持つだけの構成だと分かれば難しくない、という擁護的な投稿もあり、評価は割れています。共通しているのは、ワークフローの取っつきやすさよりも情報量の多さが先に立つ画面だという点です。
楽天のレビューは1件・平均5.0で、判断材料にできるほどのサンプル数ではありません(取得日2026.09.28)。実務的には、マスタリングの経験が浅いうちはプリセットから触り始め、パラメーターの役割を一つずつ確認しながら使うのが無難です。
価格は楽天市場の商品検索から取得しました(2026.09.28時点)。
評判の参照元: